「私学法改正 2025」で検索しているあなたは、おそらく学校法人の実務担当者か、私学経営に関わる方だと思います。令和7年(2025年)4月1日、私立学校法の大幅改正が正式に施行されました。ガバナンスの抜本的な見直し、新しい会計基準の導入、計算書類の様式変更など、現場への影響は多岐にわたります。私は幼稚園から大学までを擁する私立学校法人の事務職員として、この改正への対応を実務の最前線で経験しました。この記事では、法令の建前論だけでなく、「現場では実際に何が変わったのか」という視点で解説します。
私学法改正2025年:まず全体像を把握する
今回の私学法改正は、一言でいえば「私立学校を株式会社並みのガバナンス水準に引き上げる」改革です。背景には、一部の学校法人で経営の不透明さや理事長への権限集中が問題視されてきた経緯があります。また、少子化による経営環境の悪化も重なり、社会からの信頼確保が急務となっていました。
令和5年(2023年)5月8日:改正法公布
令和6年(2024年)6月14日:改正政令・省令公布
令和7年(2025年)4月1日:改正法施行・新会計基準導入
※既存の理事・監事・評議員については、任期満了までの経過措置あり
つまり、2025年4月以降に始まる事業年度から、新しいルールが本格適用されています。そのため、すでに対応済みの法人も多いと思いますが、まだ整備途中という法人は早急な対応が必要です。
私の勤務先では、この改正への対応が本格化したのは施行の約1年前からでした。理事会・評議員会の構成見直し、定款変更、会計システムの改修と、同時並行で複数のプロジェクトが走り、事務局はかなりバタバタしていました。「改正の内容はわかったけど、何からやればいいの?」という状態になりがちなのが、この改正の難しさだと感じています。
ガバナンス強化:理事・監事・評議員の役割がどう変わったか
今回の改正でもっとも根本的な変化が、三者(理事・監事・評議員)の権限と牽制関係の再設計です。旧法では理事長への権限集中が起きやすい構造でしたが、改正後はそれぞれの独立性と相互チェック機能が強化されました。
理事の変更点
旧法では理事が評議員を兼任できるケースがありましたが、改正後は完全に禁止。理事会と評議員会の独立性を担保するための措置です。
親族など特別利害関係者が理事の総数の3分の1を超えてはならないと明確に規定。いわゆる「同族経営」への歯止めが法的に強化されました。
評議員会が理事の選任・解任に関与できる仕組みが整備され、理事長が一方的に理事を決める構造にメスが入りました。
監事の変更点
監事の役割は今回の改正で最も大きく強化されました。しかし単に「権限が増えた」という話ではなく、実務上の負荷も相当増えている点を見落としてはいけません。
法令・定款違反のおそれがある理事の行為に対して、監事が差止めを求められるようになりました。いわば「赤カード」を出せる権限が与えられた形です。
問題が発覚した際に理事会を調査する義務が明文化されました。一方で、これは監事が「事後的に動く」だけでなく、日常的なモニタリング体制の構築が求められることを意味します。
監事の権限強化は歓迎すべきことですが、現場的には「監事が実際にその権限を行使できる体制になっているか」が問題です。非常勤の監事が月1回の理事会に出席するだけの体制では、実態として監査機能が働きません。私の勤務先でも、監事との情報連携のあり方を一から見直す議論が起きました。
評議員の変更点
評議員会は今回の改正で「諮問機関」から実質的な「監督機関」へと位置づけが変わりました。さらに評議員の構成にも新しい要件が加わっています。
- ✅ 評議員の最低人数が6人以上に(旧法より厳格化)
- ✅ 評議員自身の特別利害関係を持つ行為が禁止
- ✅ 理事の選任・解任への関与が明確化
- ✅ 重要事項の決定に評議員会の同意が必要な範囲が拡大
新会計基準への移行:実務で特に影響が大きい3つの変更
ガバナンス改革と並行して、令和7年4月からは学校法人会計基準も改正されています。会計担当者・経理担当者にとってはこちらの方が日常業務への影響が直接的です。
変更① 賞与引当金の計上が必須に
これまで任意計上だった賞与引当金が、新基準では原則として計上が義務化されました。対象は翌事業年度に支払われるボーナスのうち、当事業年度に対応する部分です。
⚠️ 初年度は財務諸表への影響が大きい:これまで賞与引当金を計上していなかった法人は、初めて計上する年度に事業活動支出が一時的に増加します。理事会・評議員会への説明時に「数字が悪化したように見える」という誤解を招かないよう、事前の説明資料準備が必要です。
賞与引当金の計上は、システム対応と仕訳ルールの整備が必要で、思いのほか準備に時間がかかりました。特に「どの時点の金額を引当金として計上するか」の判断基準を会計監査人や顧問税理士と事前にすり合わせておくことが重要でした。SE時代に「要件定義をしっかりやらないと後で必ずやり直しになる」と叩き込まれたことが、ここでも生きました。
変更② セグメント情報の開示が義務化
複数の学校種別を運営する法人(たとえば小学校・中学校・高校を擁する法人)は、事業区分ごとのセグメント情報を開示することが求められるようになりました。これにより、どの学校が黒字でどこが赤字かが、より明確に外部から見えるようになります。
| 項目 | 旧基準 | 新基準 |
|---|---|---|
| 事業区分の開示 | 内訳表(任意的な位置づけ) | セグメント情報として開示(義務化) |
| 配分基準 | 各法人の裁量が大きかった | 経済的実態に基づく合理的な基準が必要 |
| 対象法人 | 大規模法人中心 | 複数事業を持つ法人全般に拡大 |
一方で、配分基準の設定には相当な検討が必要です。共通経費(事務局費など)をどの学校にどの割合で配分するかは、法人ごとの判断になります。そのため、早い段階で監査法人・公認会計士と方針をすり合わせておくことが重要です。
変更③ 計算書類の様式変更と財産目録の基準明確化
計算書類については、従来付属していた「内訳表」が廃止され、代わりにセグメント情報が中心的な位置を占めるようになりました。また財産目録については、これまで作成基準が法令上明確でなかったものが、名称・数量・金額を具体的に示す様式が新たに規定されました。
📝 実務対応チェックリスト(会計担当者向け)
会計監査人の設置有無で変わる監査体制
改正後の監査体制は、会計監査人を設置しているかどうかで大きく異なります。
🔍 会計監査人あり
- 計算関係書類・財産目録を会計監査人が監査
- 監事は会計監査人の監査方法・結果の妥当性を確認
- 補助金交付条件となるケースが多い
- 大規模法人(収益合計200億円以上等)は設置義務あり
🔍 会計監査人なし
- 計算書類・財産目録は監事が監査
- 監事に会計的な素養が一層求められる
- 監事が評議員へ適切に情報提供する義務
- 中小規模法人でも監事の実質的な機能強化が必要
⚠️ 「会計監査人なし=楽」ではありません:会計監査人を設置しない法人でも、監事による監査の質が問われるようになっています。形式的な監査報告書の作成だけでは不十分で、監事が実際に財務状況を理解し、問題を発見できる体制が必要です。監事の選任にあたっては、会計・財務の知見を持つ人材を意識的に選ぶことが重要になっています。
SE出身の事務員が感じた「この改正の本質」
私はSEとして10年以上、業務システムの設計・開発に携わってきました。その経験から、今回の私学法改正を見ると、「権限と責任の分離」という設計思想が一貫していることに気づきます。
システム設計でいえば、一人の管理者にすべての権限を集中させると、チェック機能が働かずにバグや不正が見逃されやすくなります。そのためロールを分けて、お互いが牽制し合える構造にする。今回の改正はまさにそれを学校法人のガバナンスに適用したものです。
改正対応を進める中で、「なぜこのルールが必要なのか」を理解してから動くことの大切さを改めて感じました。ただ「定款を変えなければならない」「引当金を計上しなければならない」と義務感でやるのと、「このルールがあることで法人の透明性が上がり、結果として保護者や学生からの信頼につながる」と理解してやるのとでは、現場の動き方がまったく違います。SE時代に要件定義で「なぜそのシステムが必要か」を突き詰めていたクセが、ここでも役に立っています。
まとめ:私学法改正2025年の対応チェックリスト
最後に、私学法改正2025年の主な対応事項を整理します。まだ対応が完了していない項目がある場合は、早急に取り組むことをおすすめします。
- ✅ 理事・評議員の兼任禁止に対応した役員構成の見直し
- ✅ 特別利害関係者が理事の1/3以下になっているか確認
- ✅ 監事の調査権・差止請求権を行使できる体制の整備
- ✅ 評議員会の構成・権限を新法に合わせた定款変更
- ✅ 賞与引当金の計上ルール策定と会計システム対応
- ✅ セグメント情報の配分基準設定と開示準備
- ✅ 財産目録の新様式への対応
- ✅ 会計監査人の設置要否の確認(大規模法人は義務)
- ✅ 経過措置の適用期間と終了タイミングの確認
