2025年6月4日、カスタマーハラスメントの防止策を事業者に義務づける改正労働施策総合推進法が可決・成立しました。施行は2026年10月1日の予定です。学校も例外ではなく、企業規模を問わず、労働者を1人でも雇用するすべての事業主が対象です。つまり、私立・公立を問わず、すべての学校でカスタマーハラスメント(カスハラ)防止のための措置を講じることが法的義務になります。
学校におけるカスハラの相手方は主に保護者です。「モンスターペアレント」とも呼ばれる過剰・不当な要求や、教職員への暴言・長時間拘束・威圧的な態度——これらへの組織的な対応が、施行前に整備されていなければなりません。




まず押さえる:カスハラ義務化の全体像
カスハラの定義:学校での「保護者によるカスハラ」とは何か
確定指針(令和8年10月1日施行)は、カスタマーハラスメントを次のとおり定義しています。「①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」
学校における「顧客等」は主に保護者・学生・地域住民です。正当なクレームや意見はカスハラに該当しませんが、以下のような行為は該当すると考えられます。
- 教職員への暴言・怒鳴り声・侮辱的発言
- 長時間(数時間)にわたる拘束・電話
- 土下座・謝罪文の強要
- 同じ要求を何度も繰り返す執拗な電話・来校
- SNSへの誹謗中傷・拡散の脅し
- 学校の業務範囲外の要求を繰り返す
- 担当教員の自宅訪問・私的連絡先への連絡
- 他の保護者を扇動しての集団的圧力
- いじめ・暴力への迅速な対応を求める
- 授業内容・成績評価について説明を求める
- 学校施設の安全管理について指摘する
- 給食・保健に関する合理的な要望を伝える
- 教員の不適切な発言について抗議する
学校がやるべき対応措置:厚労省指針の4つの柱
厚労省の指針では、職場におけるカスタマーハラスメントについて、企業には、カスハラに対する方針と対処内容の明確化、相談体制の整備、事案発生後の対応、悪質なカスハラを抑止するための体制整備、相談者のプライバシー保護、不利益取扱いの禁止などが求められます。
| 指針の柱 | 学校がやるべき具体的な対応 | 優先度 |
|---|---|---|
| ① 方針の明確化・周知 | カスハラを許容しない方針を策定・就業規則に明記・保護者への周知 | 最優先 |
| ② 相談体制の整備 | 相談窓口の設置・担当者の決定・外部相談先の確保 | 最優先 |
| ③ 事後対応 | 被害職員のケア・記録の保存・再発防止策の検討 | 重要 |
| ④ 抑止措置 | 対応ガイドライン作成・研修実施・外部専門家との連携 | 重要 |
今すぐ着手:学校が2026年10月までに整備すべきもの
STEP 1:就業規則の改定
カスハラ対策義務化への対応で最初にやるべきことが就業規則の改定です。就業規則または別規程にカスハラ項目を追加し、社内に周知したか——これが行政指導の際に最初に確認される項目です。
- カスハラの定義:「保護者等からの言動のうち、社会通念上許容される範囲を超えたものにより、職員の就業環境が害されること」
- 学校の方針:「本校はカスタマーハラスメントを許容せず、職員を守るための措置を組織として講じる」
- 対象となる行為の例示:暴言・長時間拘束・土下座強要・SNS誹謗中傷等を具体的に列挙
- 相談窓口:相談先の担当者・連絡先を明記
- 記録・報告の義務:カスハラと感じた際は記録し、上長に報告する旨を規定
- 組織的対応の原則:担当者が一人で対応せず、学校として組織的に対応する旨を明記
STEP 2:カスハラ対応マニュアル・ガイドラインの整備
就業規則改定と並行して、実際にカスハラが起きたときの対応ガイドラインを作成します。「どうすればよかったか」を事後に悩むより、事前に手順を決めておくことで、担当者の心理的負担が大幅に軽くなります。
①「クレーム」と「カスハラ」の判断基準を明文化する
正当なクレームへの誠実な対応は当然必要です。一方で、社会通念上許容される範囲を超えた言動への対応は「謝罪・受容」ではなく「組織としての対応」に切り替える必要があります。この切り替えの基準(継続時間・内容の種別・繰り返しの回数等)を事前に決めておくことが重要です。
- 同一の要件について3回以上の繰り返し要求がある
- 1回の対応が1時間を超える
- 暴言・侮辱的発言が含まれる
- 学校の業務範囲外の要求である
- 録音・録画・SNS拡散の脅しがある
②「一人で対応しない」原則をルール化する
カスハラ対応で最も重要な原則は「担当者が一人で対応しない」ことです。複数名で対応することで、担当者への精神的プレッシャーを分散でき、記録も正確に取れます。また、「今日の担当者では判断できません。上の者に確認します」という言葉を使うことで、その場での不当要求を回避できます。
③記録の取り方を標準化する
カスハラが疑われる対応は必ず記録します。記録には「日時・場所・対応者・相手方・言動の内容・対応内容」を明記します。電話対応の場合は通話録音(事前告知が必要)も有効です。この記録は、後に法的対応が必要になった場合の重要な証拠になります。
- 対応日時・場所(来校/電話/メール等)
- 相手方の氏名・続柄(保護者/地域住民等)
- 対応した職員名
- 申し出・要求の内容(できる限り発言をそのまま記録)
- 対応内容と結果
- 次回対応が必要か・どのような対応が想定されるか
- 管理職への報告日時
STEP 3:相談窓口の設置と外部連携体制の整備
相談窓口を設置し、担当者が相談に的確に対応できるようにすることが義務として求められます。学校の場合、以下の体制を整備してください。
STEP 4:全職員への周知・研修の実施
社内イントラ、朝礼、教育で周知したか——これも指針で求められる対応のひとつです。就業規則を改定するだけでなく、全職員が実際に「何がカスハラか」「どう対応するか」を理解していることが必要です。
- 職員会議でのカスハラ研修(年1回以上。定義・事例・対応手順を確認)
- 対応ガイドラインの配布(全職員に印刷または電子配布し、手元に置けるようにする)
- ロールプレイング演習(実際の対話を想定した練習。特に電話対応・窓口対応担当者に有効)
- 新任職員への入職時オリエンテーション(着任初日にカスハラ対応方針・窓口・記録方法を説明)
STEP 5:保護者への周知
学校のカスハラ対策は保護者に対しても周知することが、抑止効果とともに求められています。「学校は組織として対応する」ということを事前に伝えておくことが、過剰要求の抑制につながります。
- 学校ホームページに「カスタマーハラスメントに対する方針」ページを設ける
- 入学時の保護者説明会・配布資料に方針を掲載する
- 学校だより・保護者向け通知に年1回掲載する
- 事務室・職員室の窓口付近に「対応方針」の掲示を行う
学校事務職員として事前に準備すべきもの:チェックリスト
- 就業規則の改定 ─ カスハラの定義・方針・相談窓口・記録義務・組織対応の原則を追記。労働者代表意見聴取→届出まで完了させる
- カスハラ対応ガイドラインの作成 ─ クレームとカスハラの判断基準・対応フロー・記録様式・エスカレーション先を一文書にまとめる
- 対応記録票の様式作成 ─ 事務室・職員室に常備できるよう印刷またはGoogleフォームで整備する
- 相談窓口担当者の決定と周知 ─ 窓口担当者・不在時の代替者・連絡方法を全職員に告知する
- 外部連携先(弁護士・警察)の確認 ─ 顧問弁護士の連絡先・相談手順を担当者が把握できているか確認する
- 全職員への研修実施 ─ 職員会議等でカスハラの定義・事例・対応手順を共有する
- 保護者への方針周知 ─ ホームページへの掲載・入学時説明会への組み込みを実施する
- 被害職員ケア体制の整備 ─ 産業医・EAP・スクールカウンセラーへのつなぎルートを確認する
まとめ:2026年10月1日に間に合わせるために、今動く
カスハラ対策を進めることは、自社の従業員を守り、モチベーションの向上や離職の防止に結びつく重要な取り組みです。学校においても同様です。職員が「組織に守られている」という安心感を持てることが、教育の質の維持にも直結します。
学校事務職員として、就業規則改定・ガイドライン作成・相談窓口整備・研修実施の4つを2026年9月30日までに完了させることを目標に、今すぐ着手してください。








